日本オリンピック委員会(JOC)の公式記録撮影を担当する「アフロスポーツ」。
アフロスポーツのフォトグラファーに東京オリンピックに向けた意気込みを聞きました。二人目は人間味あふれるアスリートの姿に魅せられ、プロスポーツフォトグラファーの世界へ転身した西村尚己。
「目の前で一生懸命頑張ってる選手を撮りたい思いだけ」
―2016年からアフロスポーツとして活動、つぎの東京大会がはじめてのオリンピック撮影ですね。東京開催の決まった2013年のときのことは覚えていますか。
2013年は公務員として役所で働いていました。正直に言うとあまり覚えていなくて、覚えているのは滝川クリステルさんのおもてなしぐらいですね(笑)。漠然と、ああ決まったのか、良かったなと思っていた気がします。公務員を辞めてアフロスポーツに参加するのはその3年後のことなので、自分が関わるとはまったく思っていませんでした。そういう意味ではすごいですね。今こうして撮れるチャンスにいることが夢のような気もします。
―8年前には思いもしなかった大舞台まであと十数日に迫っています。そもそもスポーツ写真に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
最初は高校野球ですね。兵庫の出身で甲子園が近いのもあって、汗と涙と泥にまみれてプレーする球児たちを見るのが好きでした。小学生の頃から夏になるとずっと家のテレビで高校野球を見ていましたね。外で遊ぶのがあんまり好きなタイプじゃなくて。そうしているといつからか彼らのすごいところを写真に撮ってみたいなと思いはじめました。それで大学の時に撮り始めたのがスタートです。
汗と涙と泥と言いましたが、とにかく激しくて人間臭いようなスポーツが好きです。高校野球、ラグビー、格闘技とか。オリンピックでもそういう競技を撮ってみたいと思っています。柔道の阿部一二三、詩兄妹は同郷ということもあって応援しています。どんな戦いをするのか、ふたりを撮ってみたいし見てみたいですね。やっぱり同じ出身の選手だと感情がこもります。撮るときも応援しながら勝ってほしいなと思いながらシャッターを切っていますよ。
―いつも冷静沈着なイメージなので、少し意外な感じがします。
カメラマンって冷静じゃないと撮れない仕事だと思うので、常にどこか冷静な自分はいますね。気持ちが昂るのを抑えつつ撮影することもあります。でも最近は若い選手、自分の子供くらいの年齢の選手が頑張っている時はうるうるきて、涙が出そうになることが多いです。歳ですね(笑)。
2018年にブエノスアイレスで行われたユースオリンピックが自分にとって単独で取材に入るはじめての総合大会でした。そのとき撮影した選手らをもう一度撮影する機会がこの前あったんですが、みなさんずいぶんと成長していましたね。また会って成長した姿を見ることができて嬉しかったです。同じくユースオリンピックのときに撮影した選手で体操の北園選手、卓球の張本選手は今度の東京大会でも注目しています。
―オリンピックではどんな写真を撮りたいと考えていますか。
空気感が伝わるような写真を撮りたいですね。今回の大会ではお客さんの入場が大幅に制限されるだろうと言われています。そのような状況にあって、写真で空気感を伝えるのが現場で撮影するカメラマンの役割だと思っています。好きで撮らせてもらってるんではなくて代表者としてみんなのために撮るという感覚です。写真は大勢の人が見るものですから、その場の雰囲気がリアルに伝わる写真を撮りたいですね。ひとことで言っても色々な意味合いがあって、難しいんですけど。
例えば最近撮影したものでは、この一枚が気に入っています。
ジャパンパラ水泳 50メートル自由形の予選で撮影した鈴木孝幸選手です。
50メートル自由形は一斉スタートで始まるとほとんどしぶきで見えない上、息継ぎをしない選手も多いんです。そこでスタート台に立つ鈴木選手の背中を撮ってみたいと思って、スタート直前に選手を見下ろせる位置に上がって撮影しました。上がってしまえば普通水泳の大会で撮るような正面から選手の表情は撮影できませんから、ちょっとした決断でしたね。でもそこが自由度が高くて、面白い部分だと思っています。隙あらば人と違う写真を撮りたいと思って狙っています。
一方でいわゆるスタンダードな写真をおさえなきゃいけないっていう気持ちもすごく大きいんですよ。やはり仕事として、テレビや雑誌で使いやすい写真を撮らないといけませんから。
守りの写真と攻めの写真みたいなイメージを持っています。ほかの人が撮らないような攻めの写真を撮るのは、結構冒険なんですよね。オリンピックでその冒険ができるかというと、撮りたいですけど難しいんだろうなと思います。それは自分に対する課題かもしれません。
―スポーツ撮影の現場も守りと攻めがせめぎあっているのですね。それでは最後にひとこと、意気込みをお願いします。
オリンピックは選手にとっても、自分にとっても最高の舞台です。目の前のことをベストを尽くして撮る。無駄にしたくないですから。後からこうしとけば良かったなということは絶対あると思うんですが、それをいかに減らすか。妥協したらいけないんでしょうね。自分の中でまあいいか、しょうがないを排除していかないといけません。最初で最後になるというつもりで、悔いの無いように頑張ります。
色々と話しましたが、あまり特定の競技、特定の選手に思い入れが強いタイプではなくて。とにかく行った場所で目の前で一生懸命頑張ってる選手を撮りたい思いだけなんですよね。
―その落ち着いた様子と柔らかい物腰とは裏腹に、ふつふつとこみ上げる熱いものを感じるインタビューでした。どうもありがとうございました。
フォトグラファープロフィール
アフロスポーツ 西村尚己 https://sport.aflo.com/nishimura/
公式インスタグラム @naoki_nishimura.aflosport
個人インスタグラム @naoki_nishimura001
アフロスポーツの写真展を開催しています!
2021年7月2日(金)~8月25日(水) 10時~17時30分
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